オリジナル短編小説を書いてみた 恭一と加代③

所沢駅から歩いて十五分ほどの古い寺で、恭一は田中加代を待っていた。
寺は薬王寺といった。南北朝の武将新田義宗所縁の寺で、その案内板には、武蔵野合戦に敗れた義宗が再起を図りここ所沢に潜伏するも挙兵は果たせず、そのまま隠れ家のお堂で、薬師如来像を掘り続け、落命したという伝説が記されている。

なぜ、”伝説”かというと、正式な歴史の年表には、新田義宗は三十七歳のときに群馬県の『うつぶしの森』で戦死したことになっているからだ。
が、あるいは、そちらのほうが伝説なのかもしれない。
裏と表は、それを見る位置によって、どちらとも真実となるものだ。
そんなことを思っていると、加代が現れた。
いつものマスクをしてニット帽を深々とかぶり、カートを押しながらとぼとぼと歩いてくる。
そういえば、その人は何歳なのだろう?年齢を聞いたことがない。
見た目は一般でいう”おばあさん”だ。

加代とは、かれこれ、一年の馴染みだ。
ここからさらに西に十五分ほど歩いたところに行きつけの本屋があり、加代はそこでときどき店番の手伝いをしている。